僕が携わったプロジェクトの失敗とは裏腹に、会社は無事上場を果たし、市場からは久し
ぶりの優良銘柄との評価を得ていた。この時点ではまだ富士通との赤字回収の交渉は端緒
についたばかりで、僕が空けた3億の穴をどのように埋めたのか聞くことすらできなかった。
ポライトシステムは、次に証券取引をシステム処理する市場の中心に位置する、優良企業を
買収する計画に入っており、これが実現すれば証券市場を驚かせる一大ニュースだった。
それとともに長門さんは兜町の寵児と呼ばれ始め、雑誌やTVでの取材攻勢でめまぐるしい
スケジュールをこなしていた。
また現在では銀行の買収、再生・健全化を繰り返して金融業界のトップに君臨する有名な代表
とも懇意にしており、度々会食を重ね、信頼を勝ち取り、有名な経営者の仲間入りを果たし、
夢が膨らむステージに駆け登っていった。
「長門さん、どこまで行ってしまうんだろう」
「なんか、別の世界へ行ってしまったみたいだね」
創業メンバーの久保と新聞を見ながら、立ち話をしていた。最初のM&Aを実施する頃は、長門
社長は大切な事柄は必ず僕たちに相談した。今では遠い昔の話になってしまい、僕たちが会社
の大切な事実を知るのは、本社の人間からか、新聞などの情報からだった。
その後、予定どおり証券取引システムの中核企業を買収したことによって、会社の株価は連日
ストップ高で、予想どおり市場はぽっと出のスタートアップ企業によるジャイアントキリング
に震撼した。長門社長はシステム開発事業から、金融、証券、教育、アミューズメントなど
経営の多角化へ舵を切り、世間の注目を一気に集めていた。
1000人を超える社員を集めた経営計画発表会では、今では珍しくもないが、長門社長は
ピンマイクをつけて壇上を手ぶらで歩きながら、今後の計画について手ぶり身振りを交え
て、饒舌に説明を行った。もともとプレゼン能力は高く、会社の目指すビジョンもクリアだった。
「すごいな、もう大企業のイベントですね」
井浦が興奮して僕に話しかけてきた。
「確かに。自分たちの会社じゃないみたいだよな」
社員たちは自分たちの会社が本当に夢にあふれ、新しいステージを登っていくのを見て、
希望に満ちていただろうし、それに酔いしれていた。
僕は無事に上場できたこと、予想を超える華々しい展開で、会社が邁進していることに純粋に
安堵した。
【これで心置きなく会社を去ることができる】
【一緒に戦った仲間たちのことが心残りだが、けじめはつけるべきだ】
と考え、赤字の処理だけを完結させることに注力した。