翌年、会社の規模拡張に伴い、湾岸エリアに事務所移転することになった。中央区に事務所を
構えていたが、どんどん社員数が増えていた当時、新しい事務所は500㎡ほどの広さだったが
、それでもいつまでもつかといった急成長を遂げていた。
僕はシステム事業部門の責任者のひとりとなり、部門の人数は100名を突破し、さらにエン
ジニアの増員が求められていた。長門社長はシステム事業の仕事からは少しずつ距離を置き、
新規事業に注力していった。そんな時また長門社長から相談を持ち掛けられた。
「□□□という会社があり、M&Aを進めたいと思っている。」
「みんなの意見を聞きたい」
これまでどおり長門さんは、5人に対して会社にとって大切な命題をひとつひとつ相談した。
5人はその時点で会社の商法上の役員でもあった。
「私は反対です」
珍しく僕は反対意見で、急激に組織が大きくなる中、人心を掌握することすら片手間で進めざ
るを得ない状況に危機感を感じていた。
「組織の成長が早すぎて、このままだと人が追い付きません」
「確かにな」
長門さんは一旦M&Aの話は、調整してまた相談すると言った。だが、中垣と相談しながら、
M&Aを進めることを前提に物事は動き始めていた。会社は急ピッチで多角化を進めていき、
システムインテグレーション事業が主軸であることは変わりなかったが、新たに金融機関向
けのサービス事業、SAPというドイツ製のERP事業の2つの事業が加わった。
その頃には、上場という言葉が当たりまえのように口にされる雰囲気が広がっていた。会社
を設立してまだ数年ほどだったが、着々とM&Aが繰り返され、上場の準備が進んでいた。
またかなりの人数の幹部候補生が入社してきた。それは有名な大手コンピュータ企業の事業
部長や役員クラス。ことさらインパクトがあったのはリクルートからの優秀なメンバーが入社
してきた。これで会社の雰囲気はガラリと変わったのを覚えている。
そのタイミングで僕たち5人は役員を外れ、執行役員という役割にシフトした。ただリクルー
トの社員が多数入ってきたことは歓迎されることで、特定の業界や地域にクローズしていた僕
たちの文化を根底から覆してくれた。何事も表彰する文化、明るくユーモアに長けたコミュニ
ケーション、それに彼らもまた仕事人間だった。
長門さんはその後、僕たち5人にこんな言葉を投げかけた。
「私にとって、みんなは大事なメンバーだけど、会社の社長からすると、どうでもいい」
「もちろん大切なことに変わりはないけど、待つことはしない」
「会社を盛り立てていくため、頑張ってもらいたい」
僕らは突き放された。突き放されたと感じるしかなかったが、長門さんの言いたいことも理解
できた。会社はものすごい勢いで大きく変貌していた。