車内に響くサックスの音

黒磯を過ぎた頃、窓の外には枯野が続いていた
学生の頃から枯野に憧れがあった
僕の理想とする枯野に近かったように思う

当時、枯野について詩を書いたことがある
それはあの人のことを書いたものであったため、
枯野を見ていて思い出し、一瞬、胸が締め付けられるようだった

白河駅を出てから社内アナウンスがあった
「飛び乗り、飛び降りは大変危険ですので、
列車が完全に止まってから乗り降りしてください」
といった感じの内容
この型の列車は入口のドアが開閉自由なのだ

次の瞬間、電車の中で音楽が流れた
一瞬、車内放送かと思った
果たしてそれは放送ではなく、
後ろの座席であるおじさんがクラリネットを吹いていたのだ

こんな古びた歴史感漂う電車の中で、
乗客はわずか5人ほどで、
クラリネットの音色が流れてくるなんて。。

おじさんに頼んで吹いているところを写真に収めさせてもらった
それから小1時間ほど会話をさせていただいた

おじさんは、
「旅で出会うものは写真よりもここに納めなくちゃ」
と頭を指さした

楽器はクラリネットではなく、ソプラノサックスだと言われた
高校時代にブラスバンドに入っていて、
ずっと仲間と吹き続けていたらしい
個性的な音色に魅せられた

このおじさんは、全国ほとんどを旅したことがある人で、
ことさら北海道については詳しかった
今はお父さんやお母さんの面倒をみるため、
郡山と水戸間を走る水郡線のある町の実家に住んでいる

「寒いから気をつけて」
という言葉をいただいて郡山で別れた

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