ふと、旅日記の一節

僕は20歳の時、ひとりで北へ向かって旅に出た。
後にそれを旅日記にして写真付きの冊子を作ったようだ。
実家の荷物を整理していたら偶然出てきたので、箸休めに載せてみる。
生前、父は食い入るように見ていたのを思い出した。

午前6時 渋谷にある兄貴のアパート
春休みを使って東京に遊びに来てもう1週間が過ぎた

そろそろ広島へ帰ろうかと思っていたが
なぜか北のほうへ行きたくなった。無性に
青春18きっぷがあることをつい先日知った
これを使ってきょうから北海道へ行ってこようと思う

きょうは小雨がちらつき、
お世辞にもいい天気とは言えない
それに加えてすこぶる体調が悪い
友人の家で食べた豚汁があたったらしい
兄貴を起こさないように恵比寿駅に向かった

上野7:10発の宇都宮行きに乗り込んだ
青春18きっぷは、鈍行列車以外は使えない
きょう中に青森駅に着ければ御の字だ

朝から雨模様の東京
上野のあたりではそうでもなかったが、
上野駅を出て5分もすると、雨に雪が混じりはじめた

引き返そうかという想いが頭をかすめた
その第一の理由は薄着のせい
北海道の寒さは全く見当がつかなかった

東北本線上り石橋駅付近
美しい杉並木が雪化粧されている
ふと目を奪われた

初老の男女が乗ってくる
知り合い同士のようだ
話の内容は釣りをしていた中年の男性が川で亡くなったらしい
連れがいれば死ななかっただろうとのこと

ひとり旅をはじめた僕にとっては
あまり幸先のいい話ではなかった

黒磯で乗り換え福島行きに乗る
電車はかなりアンティックなもので
幼稚園へ通っている頃、地元で走っていたSLのことを思い出した

黒磯の次の駅では誰も乗らなかったし、誰も降りなかった
電車内には僕を含めて6人
思い切って近くにいたおばさんに写真を撮ってもらうように頼んだら
こころよく承知してくれた

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