トングの痛い思い出

僕は小学3年生の時に腎臓の病気にかかり、1ケ月ほど入院していた。
当初、原因は定かではなかったけど、
外から入った菌で扁桃腺に炎症が起き、ミートボールくらいに腫れてしまい、
それで高熱を発し、腎炎を併発したということだった。

慢性腎炎を治す薬はないが、悪化する要因を取り除く必要があるとのことで、
扁桃腺を切除する決断をした。(母親が。。)

最初に入院した病院を退院した後、手術のため古めかしい病院へまた入院した。
年配の優しそうなお医者さんがやってきて、驚いて言った。
「これは大きい扁桃腺だねぇ」
また高熱が出る可能性があるので、早く切除したほうが良いと手術を急せた。

それから2日後が手術の日と決まり、病室で過ごした。
手術の朝は怖さで緊張して、すでにヘトヘトだった。
麻酔のため、筋肉注射を両肩へ打つと言われた。
僕は痛みには結構強く、注射の痛みには耐性があると自負していた。

右肩に細長い注射器で中の液をすべて注入された。
「痛ぁーいっ!!」 
痛すぎだった。この注射の麻酔はないのか。右腕にはもう力が入りそうになかった。
左肩にもう1本と言われた時、無意識に首を横に振っていた。
麻酔が効くまでしばらく横たわっていた。
意識はあったが、どこに麻酔が効いているのかよくわからなかった。

若い先生が部屋に入ってきて、「椅子に座ってください」 と言われた。
椅子に座って手術するのだ。
横になって手術すると血液が気管を塞いでしまうのだった。
若い先生は僕の喉の辺りを眺めていたが、おもむろに手術器具を取り出した。

それを見た瞬間思った。
【トングじゃん!】   
【給食係のパンのトングじゃん!】
【そんなもんで手術するの??】  
腰が引ひけた。。

「口を大きく空けて」  
「痛いから我慢してね」
トングを僕の口の中へ突っ込んで、
先生のこぶしが僕の前歯に当たりながら、手をグリグリ回している。
長い間そうしていたが、喉の扁桃腺がギリギリ音を立ててねじり切られた。
大量の血が喉から出てきて、知らない人がその光景を見たら、
「あの子死んだな」 ときっと思っただろう。

ステンレスのプレートには、小ぶりなじゃがいも大の扁桃腺がころがっていた。
僕の中の悪魔が横たわっているようだった。
「これは大きい。よく頑張ったね」
涙が出てきたのは痛みからではなく、ずっと口を空けていたからだ。
と自分に言い訳した。
僕は今度給食係になったら、パンをそっと挟んでやりたいと思った。

目次