小学2年生の時、僕のクラスに東京から転校生がやってきた。
田舎の小学校では見たことがない垢ぬけた女の子で、
男子生徒全員の落ち着きがなくなったように思えた。
僕の日常はその日以来、単色だった景色がカラーになった。
その子は勉強も出来たし、スポーツも万能で、
幼い頃から本格的に剣道を習っているらしかった。
ある時、講堂でその子が剣道の武具を着けて練習しているところを見かけた。
一連の動きは素早く、白い胴着と袴姿がとても美しかった。
何年か後にまた、その子と同じクラスになることがあった。
確か美術の授業だったと思うのだけど、
生徒間でくじを使ってランダムに色紙を交換するという企画があった。
その色紙はそれぞれ自分でデザイン、スケッチし、
好きな言葉を添えるというものだ。
僕は自分で何を描いたのか全然思い出せない。
ただその子が描いた色紙はとてもキレイで、
その色紙を手にした男子生徒の幸運が羨ましくて仕方なかった。
僕にはその色紙を見つめることだけで精いっぱいだった。
それから1年以上が経過しただろうか。。
あの色紙を譲ってくれないかと男子生徒に頼んでみた。
揉めた記憶はないので、何かと交換したのかもしれない。
あの子が描いた色紙は僕の元へやってきた。
色紙はブルーを基調とした色彩で、
フェアリーを想像させるような幻想的な図柄だった。
「わたしたちは、愛するからこそ愛されるのです」
色紙にあの子が書いたのは愛という言葉だった。
ずいぶん後にわかったことだが、マザーテレサの言葉だ。
その色紙は僕の宝物になった。
そしてその言葉は、ずっと僕という入れものの底の方に入っている。