電車が止まった日

小学校の同級生ユウくんとの強烈な思い出がある。
ユウくんは、生まれつき両足が不自由だった。
ひとりで歩けるけれど、体を揺らしながら人一倍エネルギーを使う歩き方だ。
なぜか僕はユウくんの身の回りのことを手伝うことが多かった。
他の人たちもそれが当たり前という雰囲気になっていた。

ユウくんはいつも僕のそばにくっついて居るようになった。
ある日、町に1軒しかない文房具屋さんへ買い物に出かけた。
小学校から南へ下り、線路を渡って100メートルほどにある文房具屋さんには、
もちろん文房具もあったが、プラモデルやおもちゃがたくさん売っていた。

その日もユウくんが一緒についてきた。
買い物が終わって、小学校のそばにあるユウくんの家に向けて一緒に歩いていた。
細い路地の先に幅2メートルほどの小さな踏切がある。

急いでいたわけではないけど、
僕が小走りで線路に足を踏み入れた時、すぐそこまで電車が来ていた。
警報機も遮断機もない場所なのだ。

最寄り駅から発車してすぐに短いトンネルがあり、
トンネルを抜けると両サイドが切り立った石壁の間を縫って電車は加速する。
その先にこの踏切がある。

僕は急いで踏切の向こう側へ走り抜けた。
ユウくんは僕のすぐ後ろについてきていた。
レールの間に足を引っかけ、ユウくんは線路の上で転んでしまった。

「死んだ」
そう思った。

瞬間、ユウくんはレールに並行したまま何回も横に回転した。
目を疑うほどにギリギリのところで電車をかわした。
電車が止まった。

最後尾車両が踏切を超えたところで、電車はゆっくり止まった。
乗務員が電車から降りてきて、
「大丈夫ですか?」
と訊ねた。

僕たちは言葉ではなく、ふたりとも首を縦に振った。
「その足は電車で痛めたの?」 
と乗務員。

「いえ、もともとです」 
ユウくんが答えた。
どこの学校か、聞かれたような気もするが定かではなく、
乗務員は電車に乗り込み、去っていった。

「すごいな、ユウくん! 間一髪だったわ」
「そう? 怖かったわー」 
ユウくんは何とか笑ったように見えた。

明るいリアクションで片づけられる内容ではなかった。
死んでいてもおかしくないと、ふたりとも感じていたからだ。
ユウくんは家に帰ってその話をしなかったようだ。
僕も誰にも話さなかった。

乗務員は学校に通報しなかったのか、学校でも問題ならなかったと思う。
あの時、僕はついて来られるのをうっとおしいと思っていたんじゃないのか。
その件以来、僕らは疎遠になった。
ごめんな、ユウくん。

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