ヒッチハイク

僕の実家は、瀬戸内海に面した小さな町の真ん中あたりにある。
後ろには標高900mほどの国立公園に指定されている山々がそびえている。
この山にはレストランや娯楽施設などがあり、
田舎町のわずかな観光地のひとつだった。

大晦日にこの山を目指し、初日の出を拝むことが、
僕たち小学生の一部で人気になっていた。
子供だけで夕方から朝まで一晩過ごすということが、冒険なのだった。

幼馴染のこうちゃんと示しあわせて、
夕方から食料やお茶を詰めたリュックを背負い、
スカイラインと呼ばれる、頂上まで続く自動車専用道路を歩いて山頂を目指す。

子供の足でなんとか登れる傾斜と距離だが、
雪がちらつきはじめ、少し予定の時間より遅れていたこともあり、
ヒッチハイクしようということになった。

この頃、この山はレジャー客には人気があり、
大晦日ともなると山頂を目指す車もかなりの数に上った。

僕たち2人は、普通の乗用車に手を挙げた。
今の時代とは違い、僕たちは必ず止まってくれると思っていたし、
その4ドアの濃い色のセダンは、思ったとおりゆっくり止まってくれた。

前の座席に30代か40代くらいのカップルが乗っていた。
「山頂まで乗せてもらえませんか?」
「ええよ。後ろに乗って!」
ハンドルを握る男の人が表情を緩めて言ってくれた。

僕たちは後部座席に乗り込み、
「お邪魔します。ありがとうございます」
「助かった~」
と安堵して顔を見合わせた。

その男の人と、女の人はとても穏やかに会話していた。
「どうして登っているの?」
「初日の出です。」
「そっか。いい日の出になるとええね」

どうしてこんな他愛のない場面をいつまでも覚えているのか?
あまりにおふたりの雰囲気が柔らかく、温かく、
ご夫婦か恋人かわからないけど、
漠然と、大きくなったら、こんなふたりのような大人になりたいと思ったからだ。

当時流行った 【ホテル・カリフォルニア】が車内で流れていた。。
「気を付けてな」
「はい!!」
ふたりは山頂で手を振ってくれた。

それからは、山の少し奥にあるお寺で過ごすことにしていた。
日の出の時間になると、山頂から見渡せる瀬戸内海の島々や町を見下ろし、
水平線から、海や雲を滲ませながら登ってくる真っ赤な太陽を、
たくさんの人と見つめて、1年の始まりのお祈りをするのだった。
あんな大人になれますように。

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