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ひとりにしない約束
島の病院に駆けつけた僕たちは、母親が小さく息を繰り返しながら、目を閉じて、いや少し薄目をあけて遠くを見ているような表情を見つめていた。意識があるのか、ないのかわからなかった。 兄ちゃんが「かあちゃん、来たよ」と叫びながら手を握ると少し目を... -
見送るという作業
おふくろが危篤じゃ! 兄ちゃんから電話が入ったのは、年の暮れの取引先への挨拶回りが終わった時だった。入院先から実家に戻って2ケ月ほど経過したタイミングだった。母親が自宅から救急搬送され、危篤状態であると知らされた。 入院先は市内から少し離れ... -
母である時間
おふくろが倒れた!兄ちゃんから電話があったのは、猛暑が連日続く8月の上旬で、実家で倒れて救急搬送されたとのことだった。 母親は肥満気味で、心不全の兆候が出てきており、近頃では歩いただけでしんどそうな顔をしていたりする。 「大丈夫?」と聞く... -
やまなみハイウェイ
大分から阿蘇まで続くドライブコースに【やまなみハイウェイ】がある。小学6年生の春に、修学旅行ではじめて訪れた。 先生方を含め、1学年総勢200人近くがバス4台で移動する。遠足とは違い、親たちがいない環境でみんなと一緒に旅行するのは、なぜか無意識... -
不器用な男②
高校で名前を上げた兄ちゃんは、瀬戸内海沿線を走る電車で10分ほどかけて通学をしていた。 一番後ろの車両に乗り込み、ゆっくり4両編成の車内を歩き、先頭車両に到着する頃には、カバンの中にたくさんのお金が集まっていたらしい。「なぜか、みんながくれ... -
不器用な男①
僕の兄ちゃんは、勉強ができるほうでもなく、とりわけ運動神経が良かったわけでもない。でもいつもニコニコして、明るくて、相手のいいところを見つけたら素直に褒める人だった。疑うことがない純粋な人だ。 僕は兄ちゃんのように素直な言葉が使えなかった... -
小学生、ヤキを入れる!
僕の幼なじみ、こうちゃんは4歳からの付き合いだ。僕の実家の200mほど下ったところに、こうちゃんの家がある。 こうちゃんのお父さんは、大きな造船会社の副社長で、見るからにかっこいい人だった。山本五十六の血を引く家柄だそうで、それで造船なのかど... -
かに三昧
「僕が東京から戻って、おふくろの面倒を見るよ」実家で兄ちゃんと2人で話した時に、僕から発した言葉だ。 母親は85歳を超えていたが、自分のことは自分で何でも出来たし、僕が帰省すると、いつも美味しいご馳走を作ってくれてさえした。 そんな母親に対し... -
今日と明日が出会う時
「もうすぐ時計は12時を回ろうとしている。。今日と明日が出会うとき....クロスオーバーイレブン」 学生時代に聞いていた23時すぎから始まるFMラジオ番組。好きだったなぁ。 日付がまたがるこの時間帯は、私の住んでいた田舎町では明かりがなくなり、暗闇... -
ふと、伊集院静の小説の一節
以前読んだ伊集院静の小説で、実話がもとになった話がある。 離婚した主人公が、高校生になった娘と14年ぶりに再会するという物語。ふたりは上手く話せないまま、学生野球のリーグ戦を観戦することに。試合は六回を過ぎ、八対〇のワンサイドゲーム。負けて...